le Conquet

先の話の続きになるけども、一連の写真がたくさん出てきて、どうやらあれは私が撮ったものらしいことが判明した。それに伴って記憶もいろいろ戻ってきた。その中の一枚、北フランスの西のはずれ、フィニテール(地の果て)という寂しい名を与えられた地方の最西端に位置するコンケ岬の風景。

この地方を始め、総じてブルターニュの海は干満の差が激しい。満潮時には時速四〇キロで潮が迫ってくる浜辺もあり、迂闊に浜遊びなどしていたら水死しかねない。それを利用した潮力発電所などもあるらしい。
コンケ岬もそんな危ない浜のひとつで、私が訪ねたときはちょうど干潮時で、小さな漁船の一群が干上がった浜辺に点在し、まるで船の墓場のような光景だった。ところが、浜の近くの寂れたカフェで一杯やっているうちに潮が満ちてきたらしく、小一時間ほどしてカフェを出たときには浜辺はもう浜辺でなくなり、満々と潮をたたえた湾に変貌して、そこに漁船が浮かんでいた。
最初、浜におりて散歩しようと思ったが、カフェの一杯のほうを選んで良かった。誰の小説だったか忘れたが、ブルターニュのどこかの浜辺を舞台にしたミステリーで、月別の干満時刻表のページをこっそり入れ替えて、ある金持ちを水死させるという殺人トリックがあった。えらく不確実な殺害方法に思えたが、コンケ岬の変貌を目の当たりにしたあとでは、確実に殺せないまでも可能性のある手法に思えてきたものだった。

それにしても寂しい岬だった。寂しがり好きにはたまらない場所だ。訪ねたのは晩秋の頃で、大きな台風がフランス全土を横断した直後だった。そのせいか恐ろしい勢いで雲が流れ、ときおり青空が見え隠れするものの、その青みはかぎりなく白に近く、南仏のけばいほどの濃い青空を見なれた私には薄ら寒く感じられた。地場産業は漁猟くらいで、年々過疎化が進んでいるらしく、浜に点在する漁船には廃船も混じっているという。どこの国でも北の暮らしは大変だ。漁に出ることなく満潮時にだけ浮かぶ船に、さいはての寂しい旅情を感じて悦に入っているのは私のような通りすがりの余所者だけだろう。

古い骨 Le Conquet

[追記]
上述のミステリの題名を思い出した。『古い骨』。作者はアーロン・エルキンズ。舞台は世界遺産に指定されたモン・サンミッシェル。

[さらに追記]
コンケ岬の満潮時の写真が見つかった。
潮が満ち、浜辺はすっかり湾になってしまった。